アルコール依存症は、単なる「過度の飲酒」ではなく、コントロールの失われた深刻な状態です。
ここでは、アルコール依存症の理解を深め、その対応方法について考察します。
アルコール依存症の本質
アルコール依存症は、「たくさん飲む」病気ではなく、「ブレーキを失う」病気です。
この依存症は意志の弱さではなく、強い意志を持っていても克服が困難な病状です。
日本では約80万人が依存症であると推定されていますが、実際に治療を受けているのはそのうちの約2万人に過ぎません。
依存症の兆候
アルコール依存症は以下のような特徴があります。
- 強い飲酒欲望・渇望
- 飲酒コントロールの障害
- 離脱症状(手の震え、発汗、幻覚など)
- 耐性の増大
- 問題があるにも関わらず飲酒続行
- 日常生活の多くを飲酒に費やす
自分や家族の飲酒チェック
日々の飲酒量を確認することは重要です。
アルコール飲料の量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8(アルコール比重)で計算。
例えば、ビール500mlは約20gの純アルコール量に相当します。
一般に20g以下は適量、60g以上は多量飲酒とされています。
多量飲酒になっている場合は、飲酒量を見直し、アルコール依存症の基準にあてはまっていないかどうかを確かめてみましょう。
アルコールと睡眠
アルコールは一時的には睡眠を促すかもしれませんが、睡眠の質を損ない、耐性がつくとより多くの量が必要になります。
不良な睡眠は日中の集中力の低下や意欲減退につながり、さらなる飲酒を招きます。
離脱症状
アルコールが切れた時に起こる離脱症状には、手の震えや発汗、不安、焦燥感などがあります。
重症化すると意識障害を伴う「離脱せん妄」に至ることもあります。
治療と回復
アルコール依存症の治療は、依存そのものを消し去るものではありませんが、断酒の継続が重要です。
例えば、30年間断酒しても一度飲むと再発する危険があります。
治療の主な柱は外来通院、自助グループ、抗酒剤の三つです。
抗酒薬とは
アルコールの分解酵素を阻害する薬剤。
ノックビン(ジスルフィラム)という粉薬とシアナミド(シアノマイド)という液体の薬があり、それぞれ作用の強さ・作用時間などに違いがあります。
これを飲むことによって体内でアルコールが分解できなくなるので、抗酒薬を飲んで飲酒すると、急性アルコール中毒と同じ状態となります。
家族の前で飲んでもらうのが原則です。
自助グループとは
アルコール依存症当事者を中心に集まって、定期的にミーティングを行ったり、助け合ったりする組織。
断酒会、AA、断酒友の会などがあります。
自助グループに参加継続している方々では、7割程度まで断酒継続率が上がります。
断酒会や断酒友の会は、本人が参加しないと拒否した場合でも、家族だけでも参加できるし、家族が参加しても十分に回復に向けて意義があります。
アルコール依存症への対応のポイント【家族】
アルコール依存症は家族全員に影響を及ぼす病気です。
家族がどのように対応し、支えるべきかを理解することは、依存症の回復プロセスにおいて不可欠です。
共通認識の形成
家族がアルコール依存症を「自分の力だけではどうにもならない病気」と認識することが重要です。
この共通認識は、家族内での支援体制を強化します。
モチベーションの高め方
断酒に向けてのモチベーションを高めることが重要です。
ネガティブな表現よりも、断酒した際のポジティブな変化を強調する言葉かけが効果的です。
「お酒を飲んでいないときのお父さんは素敵だよ」というようなポジティブな言葉かけ。
カミングアウトの勇気
アルコール依存症に対する世間のネガティブなイメージに立ち向かい、公にすることが時には必要です。
結果的にサポートを得やすくなります。
感情の管理
家族が直接本人に怒りをぶつけるのではなく、自助グループや家族会で感情を話し、解放することが重要です。
家族会や自助グループなどで、荷物を降ろしていくイメージです。
これにより、本人に冷静に接することが可能になります。
共感と理解
断酒は本人にとって辛い事です。
「断酒して当然」という姿勢よりも、「お酒という重要なパートナー」を失ってしまった本人の気持ちに寄り添ってあげる心構えの方が断酒が続きやすいです。
アルコール依存症への対応のポイント【本人】
正直さの重要性
「絶対に飲まない」という強い意志も大切ですが、飲んでしまったときには正直に話すことがより重要です。
自助グループの活用
自助グループは回復のための大きなサポートになります。生活スタイルや仕事の時間に合わせた自助グループを見つけることが、断酒継続に役立ちます。
生活パターンの見直し
飲酒してしまった場合は、生活パターンを見直し、断酒に近づく生活習慣を増やすことが有効です。
自己反省
断酒が困難な人には「自分に嘘をついている」「飲酒を人のせいにしている」といった傾向があります。定期的な自己反省が回復をサポートします。
アルコール依存症への対応のポイント【支援者】
無力感の認識
支援者であってもアルコール依存症に対しては無力であることを理解することが大切です。これにより、現実的なサポートを提供することが可能になります。
問題の共有
問題を一人で抱え込まず、周りのスタッフや他の支援者と連携することが重要です。
自己ケア
支援者が燃え尽き感を感じた場合、自らが自助グループに参加することも一つの方法です。
これにより、モチベーションの回復や新たな視点が得られます。
アルコール依存症という深刻な問題に対して、本人、家族、支援者がどのように対応すべきかについての考察してきました。
アルコール依存症は個人戦ではなく、周囲のサポートと理解が不可欠なチーム戦です。
本人として、また家族として、また支援者として、一歩一歩前進し、回復への道を共に歩むことが大切です。
それでは次の記事まで。